■21世紀の教育プロジェクト
世界では子どもの教育が加速している。まず英語ができないとお話にならないのだが、半端ではない資金が投下され、世界最強の教師がやってくる。先日、シンガポールの都心部に出来たばかりの学校を訪れた際には、思わずため息を漏らしてしまった。
F1シンガポールグランプリ開幕の日に、ノーベル物理学賞受賞者でオバマ政権でエネルギー長官を務めたスティーブン・チュー氏とジャンクボンドの帝王マイケル・ミルケンに誘われ、ミルケン氏が投資する「21世紀の教育プロジェクト」を視察し、大きなショックを受けた。
ここではなんと、小学校低学年から、コードライティング、ロボット作り、3Dプリンティングを教える。
サマーキャンプでは、ウォールストリートベーシックにいう金融基礎教育(経済学、市場原理、地政学等の基礎)、シリコンバレー01という起業家基礎教育を、ウォール街やシリコンバレーを代表するスターから学ぶ。
変わったところでは「推理小説」という、シカゴ警察の実際の犯罪捜査官と一緒に推理小説を読み進めながら、数学とロジックで犯人を突き止めるコースもある。他にもディベート技術、交渉術、プレゼン能力を世界最高の専門家から学ぶことができる。
各教室には"パロアルト""ヘルシンキ""ニューヨーク""テルアビブ"といった、世界のイノベーションセンターの名前がついている。"東京"もあった。部屋のサイズはかなり小さかったが……。
■マイケル・ミルケンの壮大な投資
ノーベル賞受賞者でオバマ政権で閣僚までつとめたスティーブン・チュー氏が教壇に立つことからわかるように、この学校はカリキュラムも施設も素晴らしいのだが、それだけでなく、何よりも講師の質が非常に高い。
その多くはUCバークレー、スタンフォード、MIT、カリフォルニア工科大学等、大学生でも憧れる、錚々たるメンバーなのだ。ミルケン氏やスティーブン・チューの意気込みを聞きながら視察し、「子どもは日本にいてはダメだ。シンガポールで子育てしていて間違いなかった」と再認識した。
私の仕事場の一つであるミルケン・インスティテュートはノンプロフィット(非営利団体)だが、ノンプロフィットといっても"not for profit"という意味で、資金は潤沢にある。そのあたりが日本の資金力の乏しいNPOとは全然違う。
ミルケン氏はもちろん"for profit"の事業もやっていて、そのうちの一つがこの日視察した教育ビジネスである。
彼は30年先の世界を見据えて投資を組み立てている。その中で彼が投資の核にしているのは、次のようなテーマである。
・高齢化
・人材の移動
・教育
・人材の移動
・教育
これらが今後世界に大きなインパクトを与えるものだと彼は思っている。彼の資金力と各国政府へのアクセス力をもって、これらの分野に投資すれば壮大なスケールの事業ができる。その代表例が今日見てきた「未来のための教育」であろう。
■世界最高峰の講師陣とカリキュラム
シンガポール政府もミルケン氏の意見を取り入れ、この教育事業を強力に支援している。ミルケン氏は、「学校で最も大事な要素は講師の質だ」と各種データで分析して主張し、尋常ではない講師陣をここシンガポールでも用意している。
小学校低学年の子どもたちが、世界レベルの講師陣から次のような分野について学んでいく。世界最高峰の教育者が世界最高峰の科学者たちと精緻に組みたてたカリキュラムである。
・コーディング
・ロボット工学
・バイオ
・3Dプリンター工作
・資本市場と経済
・起業家精神
・交渉術
・ディベート術
・ロボット工学
・バイオ
・3Dプリンター工作
・資本市場と経済
・起業家精神
・交渉術
・ディベート術
「これを日本に持って行かないか」ともいわれたが、私には「素晴らしいことではあるが、容易なこととは思えない」のだ。まず第一に、完璧な英語ができないと一流の先生から直接学ぶことはできないし、世界の同世代と自由に交流することもできない。そんなことは今の日本では当分起こりそうもない。
小学生から完璧な英語ができるというのは、もう、中国でも韓国でも東南アジアでも、21世紀を生き抜くためには当たり前のことだ。日本にいる方々には異論もあろうが、今さらそこをゴタゴタ言っている時間はない。
そんな議論が聞こえてきただけで、「さようなら日本。最初から当てにしていなかったけど、まだそうなのね? 世界中にこのスタイルを欲している子どもたちは無限にいるから、じゃあね」となるだろう。
■かわいい子どもは日本に置いておいてはダメ!
子どもの能力が一番加速するときに合わせて、世界は教育手法を加速的に変化させ、時代に合わせて様々なものを取り入れながら、暗記重視のアジアの教育もエリートレベルで劇的に変わっていく。その背景にはミルケン氏のような、教育界以外からの、強力な民間参入組のインパクトがある。
彼らが投下している資本の額を聞いたら、日本の教育界の人はびっくりするだろう。軽井沢にインターができたくらいで大騒ぎの日本だが、シンガポールではその何十倍もの投資が競うように行われている。日本はすでに5周遅れくらいではないか。何もかもが絶望的に違う。
日本は1億人以上の人口があるので、確率的には一定の人材を生み出すだろう。しかし、人材育成、特にエリート層への投資があれだけ薄ければ、世界との人材力の差は広がるばかりだ。
小さいうちから多様性の中に身を置き、当たり前に英語を話さなくてはならない環境で、豊富な選択肢の中から、時代に合った教育を受けさせてあげるべきで、それができる場所として言えば、シンガポールは最高の環境だろう。
わが子に、お金持ちになってほしいとか、大成功してほしいとか、そういうことを望むわけではない。ただ、予想もできない大変化の連続となるであろう21世紀に、多くの選択肢を持ち、幸せに、かつ自由に生き抜く力を身につけさせるためには、残念ながら、今の日本の教育の中に子どもを置くべきではない、と思ってしまった。
『シンガポール発 最新事情から説く アジア・シフトのすすめ』
田村耕太郎著
(PHPビジネス新書、983円)
田村耕太郎著
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